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Spacial Talk : feat. Keiichi Sokabe (2)

ミュージシャン・曽我部恵一 ✖︎ 小説家・桜井鈴茂
飲むこと / 飲まないこと。その先の話。
【第2回】

撮影:川畑里菜
インタビュー・構成:松まさる

当サイトのオープン記念スペシャル対談・第2回では、小説家・桜井鈴茂とミュージシャン・曽我部恵一が、飲酒に対して対照的なスタンスを持った2人のアメリカ人アーティストについて語り合った。一人は、飲酒文化に深く浸りながらもアルコールと一定の距離を置き、豊饒な作品を生み出しているミュージシャン、トム・ウェイツ。もう一人は、アルコールに溺れながらも透徹とした、ミニマリズムとも呼ばれる簡潔な文体で人間の複雑な本質に迫った詩人・短篇小説家、故レイモンド・カーヴァー。20世紀の音楽/文学シーンに偉大な足跡を残した先達たちを語り合いつつ、2人が明かしたそれぞれの創作姿勢とは――。

トム・ウェイツなんかは、バーのコミュニケーションとそのあり方を観察・研究して、作品を生み出してるんじゃないかな。(曽我部)

 

——前回は、アルコールを飲むこと飲まないこと全般についてお伺いしましたが、ここからは、お二人の本職である音楽家と小説家の創作活動に絡めたお話をしていただければと思います。飲酒はアーティストのつくる作品にも影響を及ぼすことがある一方で、「酔いどれ詩人」としても知られるシンガーソングライター、トム・ウェイツ(1949年生まれ)は、その呼び名にも関わらず実はお酒を飲まないと言われています。

曽我部:そう、トム・ウェイツは飲まない。

桜井:えっ! トム・ウェイツ飲まないの?

曽我部:飲む設定の役者。元々飲まないのか、昔は飲んでいてどっかの時点でやめたのか、そこんとこはわからないけど、とにかく今は飲まない。

桜井:マジか〜。

――トム・ウェイツと言ったらあの酒焼けしたような歌声から、飲んだくれのイメージが強いですが、しらふの時のクリアな状態で作詞作曲をしてるってことですよね。

曽我部:エンターテイメントの世界にいる人間ってみんなそうかもしれないですね。お客さんありきだから、楽しませるために散々考えて計算してやってるはずです、僕も含めて。トム・ウェイツなんかは、バーのコミュニケーションとそのあり方を観察・研究して、作品を生み出してるんじゃないかな。 

曽我部恵一

――トム・ウェイツが飲まないということを知った上で、曽我部さんの話を伺っていると、しらふと作品のクオリティとの相関性が強いことを感じました。

曽我部:でも、レイモンド・カーヴァー(1938年生まれ)はアル中でしょ?

桜井:うん、そうだね。チャールズ・ブコウスキー(酒、女、競馬をこよなく愛した1920年生まれのアメリカの作家、詩人)も。ま、ブコウスキーはアル中まではいかないのか。

曽我部:ブコウスキーはトム・ウェイツと同じだと思うよ。

桜井:でも、大酒飲みでしょ。

曽我部:飲んでるけど、あの無頼派ぶりは全部お芝居だと思う。カーヴァーがブコウスキーに会った時のコラムがすごい面白くて。カーヴァーが創作を教えていた学校にブコウスキーがゲストに来たんだって。そしたら、いかにもブコウスキーだっていう態度をずっと続けるんだって。カーヴァーは、ブコウスキーは普段はそういう人じゃないって知っていたんだけど、彼はずっと飲んだくれで豪快な無頼派を演じていたんだって。それがすごくショックだったって書いてた。ほんとに危険なのはカーヴァ―みたいな人だよね。アル中なのに、アルコ―ルの匂いのしない繊細な小説を主に書くわけでしょ。

桜井:カーヴァーには、アルコール依存症の治療施設に入ってる主人公が妻やガールフレンドに電話をかけようとする、とても美しい作品があったよね。……『ぼくが電話をかけている場所』だっけ。

曽我部:ああいうのは、ひりひりするよね。善も悪もないようなすごく透明な風景をスーって書くあの筆が、アルコールがもたらす酩酊状態に深く溺れることで、できてたっていうのがね。ミュージシャンの中にも自分を使った人体実験をしてる人がいるんじゃないかな。アルコールなりドラッグを摂取して、どこまで自分の精神が従来の価値観や情報から自由になれるかっていうことを試す、体を張った実験。カーヴァーはそれをやり遂げたって気がする。

桜井:カーヴァーの場合は、実験よりも先に実人生があるんだと思うけど……人体実験をやっているうちにそこから離れられなくなった、という感じなのかなあ。

曽我部:死ぬ人もいるけど。

桜井:その流れでいうと、意識的、実験的にシラフで過ごして、その中で作品を生み出すタイプの作家っていうのが、今後出てくるかもしれない。

桜井鈴茂

後悔や自己嫌悪で潰れてしまう日をなくすと、おのずと気持ちよく過ごせる時間が増えるでしょ? それを今後書く小説に活かせたらいいなって今は思ってる。(桜井)

曽我部:桜井くんは、アルコール一生飲まないの?

桜井:はっきり決めたわけじゃないけど、このノンアル生活が思いのほか自分に合ってるなあ、って思ってる。特に今は、いろんな仕事に手を出しちゃって(笑)、時間的にもカツカツだから、前みたいにお酒を飲んで酔っ払っていたら到底こなせないし。飲みたいとも思わなくなってる。曽我部くんも飲みたいとは思わないんでしょ?

曽我部:そうだけど、むしろ、それはものづくりのためだね。ここ2ヶ月、下北沢にオープンしたばかりの「カレーの店・八月」でずっと働いて、営業が終わって夜中に帰宅するんだけど、一本ぐらいビールを飲みたいなって気持ちはあったね。だって、その後ただ寝て朝起きてまた仕事するだけだから、その合間のビール一本やウイスキー一杯とかはすごく大事なもんなんだな、ってその時は思った。もし、ずっと自分がカレー屋さんで、朝起きてカレー屋さんやって働いて夜片付けして帰る、そういう人生だったらお酒も普通に飲むよね。

桜井:かもね。

曽我部:その一本をプシュってあける時が最高の時間だろうし、今日もやりきった、やっとゆっくりビール飲みながら好きなレコードが聴ける、っていう時間。それはすごく大事なんじゃない。それがお酒じゃなくてもいいんですけど。生きるためにはそういう救いが必要。僕らは、ものを作ってるんで、それが誰かの救いになる、または自分の救いになるということしか望み得ない。ほかに幸せを望むと純度が落ちちゃうな、と僕は感じてる。だから、その純度を落とすようなことはやるべきではないなって。

――音楽に一番のプライオリティを置いているんですね。

曽我部:そうです。

桜井:おれの場合は、創作のためにお酒を飲まないという選択をしたわけじゃなくて、単純に、飲んでると嫌なことや失敗が著しく増えてきたので、そういうマイナス面をなくしたかった。正直に告白すると、40歳を過ぎてから参加した飲み会で、ほんとうに心から楽しかったのは10回中2回くらいです。

――何の告白ですか(笑)

桜井:いや、その時に一緒に飲んでた人に申し訳ないと思って(笑)。まあ、飲んでる時はそれなりに楽しんでるんだけどね、翌朝になると、たいてい後悔してる。そういう後悔や自己嫌悪で潰れてしまう日をなくすと、おのずと気持ちよく過ごせる時間が増えるでしょ? それを今後書く小説に活かせたらいいなって今は思ってる。

全てが満たされているはずなのに、すごくだめな状態の人間を描くと、それはすごいよね。(曽我部)

――桜井さんが小説の中で書くものと、桜井さんの実人生ってちょっとベクトルが逆行してるのかなと思って。書いてるものの中では精神的にも経済的にも困窮してるような登場人物が多いと思うんですが、ご自身はマラソンを走ったりジムに通ったりと健康志向。

桜井:うーん……健康志向というより、充実志向なのかな(笑)。存分に書くために健康でありたいという意識はあるかもしれない。それに、おれ、私小説を書いてるつもりはないので。登場人物がたとえおれに似ていたとしても、そいつはおれじゃないです(笑)。

曽我部:だから次はさ、表面上は健康志向でも、ものすごく不健康な魂っていうものを描くしかなくなるんですよね、多分。

桜井:うん、かもね。

曽我部:表面上の健康・不健康、お金がある・ないとかと一切関係のないところでの人生のどん詰まりとか、幸不幸。人間の生きるっていうことの不幸せ、もしくは幸せをね。多分、次はそこを描くしかないと思うし、重要なことだと思います。

桜井:そういう領域に行き着くためにも、脳はクリアである必要がある。

曽我部:もうちょっと言うと、かつてはお酒がもたらす酩酊状態とかドラッグ中毒になってしまった脱落感がステレオタイプなアウトローや堕落のイメージになっていて、そこを描けば堕落した人生が描けるっていうのはあった。でも、現代はそんなことなく、そうじゃない場所での救済みたいなものを書かなきゃいけなくなってるでしょ。だから、桜井くんがお金持ちになって、すごく健康になって、マラソンでもかなり良い成績を残して全てが満たされているはずなのに、すごくダメな状態の人間を描くと、それはすごいよね。

桜井:そうだね、そういうの、いずれやってみたいね。

曽我部恵一(そかべけいいち)
1971年8月26日生まれ。乙女座、AB型。香川県出身。
90年代初頭よりサニーデイ・サービスのヴォーカリスト/ギタリストとして活動を始める。
1995年に1stアルバム『若者たち』を発表。'70年代の日本のフォーク/ロックを'90年代のスタイルで解釈・再構築したまったく新しいサウンドは、聴く者に強烈な印象をあたえた。
2001年のクリスマス、NY同時多発テロに触発され制作されたシングル「ギター」でソロデビュー。
2004年、自主レーベルROSE RECORDSを設立し、インディペンデント/DIYを基軸とした活動を開始する。
以後、サニーデイ・サービス/ソロと並行し、プロデュース・楽曲提供・映画音楽・CM音楽・執筆・俳優など、形態にとらわれない表現を続ける。
http://www.sokabekeiichi.com/
桜井鈴茂(さくらいすずも)
1968年4月23日、札幌市の天使病院にて出生。石狩郡当別町で育つ。明治学院大学社会学部卒業。同志社大学大学院商学研究科中退。バイク便ライダー、カフェ店員、郵便配達員、スナックのボーイ、小料理屋店長、水道検針員など、さまざまな職を経たのちに、『アレルヤ』(朝日新聞社/2002年、双葉文庫/2010年)で第13回朝日新人文学賞を受賞。著書に『終わりまであとどれくらいだろう』(双葉社/2005年)、『女たち』(フォイル/2009年)、『冬の旅』(河出書房新社/2011 年)、『どうしてこんなところに』(双葉社/2014年)、『へんてこなこの場所から』(文遊社/2015年)、『できそこないの世界でおれたちは』(双葉社/2018年)。現在は、双葉社の文芸webマガジン「COLORFUL」http://www.f-bungei.jp にて『探偵になんて向いてない』を連載中。 ハーフマラソンとDJと旅と猫とノンアルコールビールを愛好。
公式サイト http://www.sakuraisuzumo.com/
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